2017年2月14日(火)に実施した読書会で読んだ,「Spelt et al. (2009) Teaching and Learning in Interdisciplinary Higher Education: A Systematic Review,Educational Psychology Review」についてのメモです.
概要
学際的な高等教育(Interdisciplinary higher education)は例えば学際的思考(interdisciplinary thinking)のような領域を越境するスキルを発達させることが目的となっている.本レビュー論文では学際的思考を「1つの領域の手法を通じてでは不可能もしくは起こり得ない方法での認知的な進展を生み出すため,2つもしくはそれ以上の学問分野の知識を統合する能力」として定義する.このスキルはいくつかのサブスキルから構成されている複雑な認知的スキルであると考えられている.本レビューは批判的分析に基づき4つの科学文献データベースをシステマチックサーチの手法を用いてなされた.このレビューでは、これまでのところ学際的な高等教育における教育と学習に関する科学的研究は限られており、探索的であることが示された.さらにこの研究では,学際的思考に必要不可欠なサブスキルおよび学際的思考の発達を可能にする典型的な状況に対する認識を進展させた.この認識というのは,今後の学際的な高等教育の理論と実践が前進できるプラットフォームとなるだろう.
Review Framework
Research Questions
学際的な高等教育の文脈において,
- どのサブスキルが学際的思考を構成すると言及されているか?
- どのような学生の条件が影響すると言及されているか?
- どのような学習環境の条件が影響すると言及されているか?
- どのような学習プロセスの条件が影響すると言及されているか?
- 学生と環境と学習プロセスにはどのような関係があると言及されているか?
Method
- 含むものと含まないもの基準の明確化
- 検索方略の作成
- 関連する出版物の特定
- 批判的分析と調査
Results and Discussion
RQ 1~4 :
A.可能性があるサブスキルと条件の概観
- 学際的思考
- 知識
- 領域の知識
- 領域のパラダイム知識
- 学際的な知識 // 領域間の違い,多領域(multidisciplinary),学際について知っている
- スキル
- 高次の認知スキル // 理論や方法を統合し認知的進展を継続的に行なう必要がある
- コミュニケーションスキル // 意味を調整し,認識論的差異を解決し,認知的発展の成果を広い読者に伝えるために,異なる領域の対話の言語を学ぶ必要がある
- 知識
- 学生
- 個人特性
- 好奇心,敬意,開放性 // 他領域に向かうために必要不可欠
- 忍耐力,勤勉さ,自己調整 // 認知的進展を行なうために必要不可欠
- 事前の経験
- 社会
- 教育
- 個人特性
- 学習環境
- カリキュラム
- 領域と学際の間のバランス
- 学際性におけるコース内側と外側の領域知識
- 教員
- 学際性にフォーカスした知的な共同体
- 学際性に熟達した教員
- 学際性における合意
- チーム開発
- チーム教授
- 教授法 // 暗記するだけでなく適用していくために必要
- 学際性を達成することを目的としている
- アクティブラーニングを達成することを目的としている
- コラボレーションを達成することを目的としている.
- 評価
- 学生の知的な成熟の評価
- 学際性の評価
- カリキュラム
- 学習プロセス
- パターン
- 段階的な進展
- リニア
- インタラクティブ
- 問いに対するマイルストーン
- 学習活動
- 学際性を達成することを目的としている
- リフレクションを達成することを目的としている.
- パターン
RQ 5 学生と環境と学習プロセスにはどのような関係があると言及されているか?
A. 実証的な研究結果はない.ただし,レビューからいくつかの仮説は導くことができるだろう.
Conclusions and Considerations
- 学際的な高等教育は限定的であり探索的であることを示した.
- 学際的な高等教育における学際的思考に関する明確で包括的な研究を提供した.
- (学生が能力を得るかではなく,教授法の特徴で語られがちな学際的な高等教育の場面において)アウトカムベースを適用したことはイノベーティブである.
- (研究デザインがしっかりした)説得力のある実証的な研究が必要であることを示した.
Suggestions for Further Research
明らかにされたサブスキルや条件について調査する説得力のある実証的な研究が必要である.
- 学生・学習環境・学習プロセスの条件と学際的思考の関係性について仮説を検証する研究
- 最適な条件の組み合わせについて明確にする研究
- 知識やスキルの発達の順序や広がり,必要とされる知識とスキルのバランスに関する研究
- 学際的な高等教育のカリキュラムデザインが学際的な思考を促進させるのか?
コメント : 学際的と多領域(multidisciplinary)は統合するかしないかという点で異なる(学際は学問分野の知識を統合する)ことが強調されている.また筆者は「学際的だと呼ばれるカリキュラムは,大抵実際には多領域(multidisciplinary)であり,多くの視点がカリキュラムを通じて分野の知識として統合されることはない」と指摘する.では,どのようなカリキュラムであれば学際的思考は育成されるのか?本論文では今後活動を進める上で参考になるフレームや論文が提供されていた.